自然界を測定する技術#

1. はじめに - そもそも「正しく測定する」とは?#

センサを使った測定では,センサが出力した数値をそのまま記録すれば「正しく測定できた」という訳ではありません.特に,実世界を対象とした測定では,理想的な実験環境とは異なり,必ず何かしらのノイズや外乱が存在します.

例えば,屋外の温度を測定する場合,温度センサに直射日光が当たれば,周囲の空気の温度ではなく,日射によって温められたセンサ自身のの温度を測定してしまう可能性があります.この場合,センサが故障しているわけではありません.センサは「そのセンサ自身の温度」を正しく測定しているにもかかわらず,私たちが本来測りたかった「周囲の空気の温度」とは異なる値が得られているのです.

このように,測定ではただセンサの出力を記録するだけでなく,

そのセンサが本当に自分の知りたい量を測っているのか

を考えることが非常に重要です.

その他にも,センサを利用した実験では,測定値そのものだけでなく,

  • どのようなセンサを使用したか

  • どのように設置したか

  • どのような環境で測定したか

  • どのように校正したか

  • どのような方法でデータを処理したか と言った情報も重要な測定結果の一部です.

センサの仕様や校正,外乱やノイズ,さまざまな誤差の要因,サンプリングレート,データ処理,経年劣化などを理解することで,単に「センサから数値を取得する」のではなく,得られた測定値を適切に評価し,その意味を説明できることが求められます.

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図1: 短絡的な学生と思慮深いシニア研究者の違い

2. 測定時の注意事項#

本章では,測定時に特に注意すべき項目について説明します.

2.1. 校正#

センサの出力値が,既知の基準値に対してどの程度ズレているかを調べる操作を校正またはキャリブレーションと呼びます.

同じ型番のセンサであっても個体差が存在するため,必要に応じて基準器との比較を行い,オフセットや感度の違いを補正します.また,校正は一度行えば終わりではなく,長期間使用する場合には定期的な再校正も必要です.

2.2. センサの測定範囲・精度・分解能#

使用するセンサの仕様を確認し,測定対象に対して十分な性能があるかを確認します.

特に注意すべき項目として,

  • 測定範囲

  • 精度

  • 分解能

  • 感度

  • 応答時間

などがあります.

具体例: 果実径センサの分解能#

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図2: 果実径センサの仕様

分解能(R): ノイズに埋もれずに検出できる最小変位

\[R = \frac{\text{ノイズ電圧}}{\text{感度}} = \frac{1\text{ mV}}{26.667\text{ mV/mm}} \approx 0.0375\text{ mm} \approx 0.038\text{ mm}\]

つまり,0.038mm以下の変位を見たところでノイズと区別できないため,意味がない.

さらに,もしマイコンやロガー等で読み取る場合,センサの分解能(\(1\text{ mV} \approx 0.038\text{ mm}\))を損なわずにAD変換するためには、少なくとも 11 bit〜12 bit 以上のADC(\(2\text{ V} / 2^{11} \approx 0.98\text{ mV}\)、\(2\text{ V} / 2^{12} \approx 0.49\text{ mV}\))が必要になる.

2.3. 測定環境と外乱#

実際の測定環境では,測定対象以外のさまざまな要因がセンサに影響を与えます.

代表的な外乱には,

  • 温度

  • 湿度

  • 日射

  • 気流

  • 振動

  • 周辺光

  • 電磁波

  • 人や物による干渉

などがあります.

測定値に変化があった場合,それが測定対象の変化によるものなのか,あるいは外乱によるものなのかを区別する必要があります.

2.4. センサの設置方法#

センサの取り付け位置や向き,固定方法によって,測定結果が大きく変化することがあります.

例えば,

  • センサの高さ

  • 対象との距離

  • センサの向き

  • 固定方法

  • 周囲の物体との位置関係

などを統一することが重要です.

同じセンサを使用しても,設置条件が異なれば,異なる測定条件で実験していることになります.

例えば,PiNode3の設置には,「北向き」「メロンと同じ高さ」「葉が被らないように」などのルールを設けています.

2.5. 電源・配線・電気的ノイズ#

センサの出力は,電気回路や配線の影響も受けます.

例えば,

  • 電源電圧の変動

  • GND電位の変動

  • 長い配線

  • モータやインバータから発生するノイズ

  • 接触不良・コネクタの劣化

などによって,測定値にノイズが混入することがあります. 特に,アナログセンサは電気的ノイズの影響を受けやすいので注意が必要です.

2.6. サンプリング周期#

時間的に変化する現象を測定する場合,どのくらいの間隔でデータを取得するかが重要です.

サンプリング周期が長すぎると,短時間の変化を見逃す可能性があります.一方,必要以上に高速で測定すると,不要なデータが増えたり,ノイズの影響が目立ったりする場合があります.

測定したい現象の時間スケールに応じて,適切なサンプリング周期を設定する必要があります.

2.7. センサの応答時間#

センサは,測定対象が変化しても瞬時に値が変わるとは限りません.

CO2センサなどでは,測定対象が変化してから,出力が最終値に到達するまで数十秒から数分かかることもあります.

そのため,

  • 測定開始直後の値を使わない

  • センサが十分に安定してから記録する

  • センサの応答速度より速い現象を測定しない

といった注意が必要です.

例えば,灌水信号を出力した後,すぐに土壌水分センサが反応する訳ではありません.モータがバブルを開け,水が流れ出し,パイプの端まで水が到達し,パイプ内の水圧が十分上昇した後,始めて灌水チューブから放水されます.現実世界のラグの考慮が必要です.

2.8. 経年劣化とドリフト#

センサの特性は,使用時間や環境によって少しずつ変化する場合があります.

原因として,

  • センサ素子の劣化

  • 汚れ

  • 腐食

  • 紫外線

  • 機械的な変形

などがあります.

長期間の測定では,測定開始時と終了時でセンサ特性が変化している可能性も考慮する必要があります.

例えば,重量センサ(歪センサ)は,繰り返し使うことで金属疲労が蓄積し,ゼロ点がすれてしまうことがよくあります.定期的なキャリブレーションが必要です.

3. 測定データの記録と管理#

測定データを適切に記録し,管理することも重要です.

  • 測定日時

  • 測定場所

  • 測定条件

  • 使用した機器

  • 測定値

  • 測定方法

  • 測定者

  • 測定目的

などを記録することで,後から測定データを振り返り,原因を調査することができます.